『緑の悪魔』、『美しき狂気』
そんな物騒な異名を持つ、幻のお酒があります。
それこそが、『アブサン』です。
今回はこの伝説のお酒、じっくり解説していきますね!
19世紀のヨーロッパで芸術家たちを虜にし、一時は禁止までされたこのお酒。
一体どんな魅力があるのか、歴史から味わい、選び方まで徹底解剖していきます!
筆者紹介
🍺レストラン&バーで修行して15年!(元)バーテンダー
🌶️エスビー食品公認資格『スパイス&ハーブ検定』1級ホルダー!
🦝『芸術家』って響き、かっこいいですよね。なりたいなぁ。
「幻の酒」アブサンとは?基礎知識

アブサンとは
18世紀にスイスやフランスで生まれたハーブリキュールの一種です。もともとは薬酒として発明されました。
ニガヨモギ(写真右)を主原料に、アニスなど複数のハーブを組み合わせて造られる、独特の香りと鮮やかな緑色が特徴のお酒です!
19世紀のヨーロッパで爆発的に流行し、一時は「危険な酒」として禁止されるほどの社会現象を巻き起こしました。
原料と由来
植物の『ニガヨモギ』を主原料に、アニシードなど数多くのハーブが配合。
世界的に、ニガヨモギ・アニス・フェンネルの組み合わせは「聖三位一体」と呼ばれています。
この基本の組み合わせに、銘柄ごとにヒソップやメリッサなど様々なハーブが加えられ、独自の風味が生み出されているのです。
数々の異名
「緑の悪魔」「禁断の酒」「悪魔の酒」「美しき狂気」「伝説の酒」etc...
実に様々な異名を持つアブサン。(しかも全部なんか怖い!)
かの有名画家であるゴッホが『アブサンの魅力に取り憑かれてしまった』とまで言われるほどに中毒性のあるお酒として知られています。(ゴッホはズバリ『アブサン』という作品も残してます。)
アブサンは原料に含まれる成分に中毒性があるとして、1915年に製造及び販売が禁止となった幻のお酒です!(今は成分変えて販売してますよ。後述。)
芸術家を虜にしたお酒らしい、粋な演出ですよね。
【異名の原因!?ツヨンとは】
これらの怪奇な異名がついた原因は、原料であるニガヨモギに含まれる精油成分「ツヨン」。
この『ツヨン』は、「セージ」や「コリアンダー」などのハーブやスパイスにも含まれてます。
過剰に摂取することで幻覚や錯乱を引き起こすと言われてました。
(諸説あり、現在ではツヨンは身体には無害など様々な説が飛び交っております。)さすが伝説。
社会に対するアブサンの影響のデカさが懸念され、19世紀末以降、各国で製造・販売が禁止となりました。
その後1981年にWHOがツヨンの規制値を見直し、これを受けて1988年にフランス(EU規定)で製造・販売が解禁。各国でも順次、規制緩和が進んでいきました。
今ではヨーロッパ中心として再び世界中で親しまれ、銘柄の数は今では400種類以上にのぼっているといわれています。
アブサンの歴史 ~芸術家を虜にした背景~

フィンセント・ファン・ゴッホ作『アブサンのある静物』(原題:Still Life with Absinthe / Café table with absinthe)1887
虜な芸術家続出
安価で量産されたアブサンは愛飲者(中毒者)を爆発的に増やしました。
そしてアブサンに非日常の感覚を求める多くの芸術家が多数虜に。
19世紀フランスの多くの画家や芸術家が魅了され、たくさんの作品の題材とされました。
ゴッホの他にはロートレック、詩人のヴェルレーヌが有名。
フランスの詩人ランボーは「美しき狂気」と呼んで愛飲。
画家のアルベール・メニャン作の『緑色のミューズ』はアブサン飲んで「緑色の妖精」が見えている男の姿を描いています。
あと有名なのはヴィクトルオリバの『アブサンを飲む男』。アブサンを飲む男のテーブルの上に緑色した女性が座ってる絵画。
アブサンにインスパイアされた実に様々な作品が生み出されている。
アブサンの始まり
始まりはスイスのヴァル・ド・トラヴェールで作られた、ニガヨモギを原料にした薬。
それを医師「ピエール・オルディネール」が蒸留を応用して独自の処方を発案。
製法を1797年に「アンリ・ルイ・ペルノー」に売却。ペルノーが商品化!
当初はごく小規模な生産でしたが、転機は1830年代〜40年代のフランス軍によるアルジェリア侵攻でした。
マラリアや発熱・赤痢を予防できると信じられ、兵士たちにアブサンが配給されたのです。
任務を終えて帰還した兵士たちが、その味をパリに持ち帰ったことで、カフェ文化に一気に浸透していきました。
味わい・選び方の実践ガイド

味わい
ハーブの豊かな香りが感じられ、メンソールのような爽快な味!
(ハーブ由来の独特なクセと香りが強い為、好みがかなり分かれるリキュールです。)
でも、ハーブ好きには堪らない味ともいえます。
ベースとなるのは、ニガヨモギ・アニス・フェンネルの「聖三位一体」。
まずアニスやフェンネルの甘く華やかな香りが鼻を抜け、その後にニガヨモギ由来の力強い苦味と清涼感が続きます。
一般的な甘口リキュールをイメージすると印象が違うかもしれません。
色
色は淡い緑色。水を加えると白濁する。
この白濁現象は「ルーシュ効果」と呼ばれ、アブサン・ドリップの醍醐味でもあります(詳しくは後述)。
アブサンには大きく2つのタイプがあります。
🟢緑色に着色されたものは「ヴェール(Verte)」
◯無色透明のものは「ブランシュ(Blanche)」⇒着色料を使わずピュアな味わいを楽しめるのが特徴です。
度数
アルコール度数は、一般的に40〜70度超と高めなものが主流です。
ただし近年では、「高すぎて飲みにくい」という声に応える形で、26度前後に抑えたミドルアルコールタイプも登場しています。先ほど紹介した「アブサント26」も、まさにこのタイプの代表格です。度数の高さに不安がある方は、こうした商品から試してみるのもおすすめです。
失敗しないアブサンの選び方
選ぶときのポイントを整理しました。
①製法で選ぶ:蒸留式か浸漬式か
アブサンには大きく分けて2つの製法があります。
- 蒸留式(Distilled):ハーブを浸したアルコールを蒸留して作る、伝統的で高品質な製法。雑味が少なく、繊細な香りが特徴です。
- 浸漬式(Mixed & Macerated):ハーブをアルコールに漬け込むだけの、比較的安価な製法。香りは強めですが、やや粗さが出ることもあります。
初めての1本なら、ラベルや商品説明に「Distilled(蒸留式)」と書かれているものを選ぶのがおすすめです!
価格は上がりますが、雑味の少なさが段違い。
②色で選ぶ:ヴェールかブランシュか
- ヴェール(Verte/緑):一般的にイメージされる緑色のアブサン。着色にクロロフィルを使用。
- ブランシュ(Blanche/白):無色透明のアブサン。着色工程を省いた、よりピュアな味わい。
③ツヨン濃度で選ぶ
EU規定では、ツヨン濃度は最大35mg/kgまでと定められています。日本国内で流通している製品も、この基準内で作られているものがほとんどです。
⚠️ツヨンに関する補足
「ツヨン濃度が高い=強い酒」ではありません。度数(アルコール度数)とは別の指標なので、混同しないよう注意してください。
④度数で選ぶ
先述の通り40〜70度超と幅広いですが、初心者は45〜55度程度のものから始めると、水割りやドリップでの調整がしやすくおすすめです!
アブサンと間違えやすい仲間たち
アブサンが禁止されていた時代、その代わりとして生まれたお酒たちがあります。
名前が似ていて混同されがちなので、ここで整理しておきましょう!
| 名称 | 位置づけ | 度数 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| アブサン | オリジナル | 40〜70度超 | ニガヨモギ使用、緑〜白濁が特徴 |
| ペルノ | アブサンの代替品として誕生 | 約40度 | ニガヨモギ不使用、クセが少なく飲みやすい |
| リカール | 南仏発の人気アニス酒 | 45度 | アニス・リコリスが主体、甘め |
| パスティス | ペルノ・リカールを含むジャンル総称 | 40度以上 | 「リコリス+アニスやディル使用」が定義 |
バーで「アブサンください」と言って、実はペルノやリカールが出てくることもあります!(けっこう多いです…)
ニガヨモギを使っているかどうかが、本物のアブサンかどうかの一番の見分け方です。
それぞれ、もう少し詳しく紹介しますね。
★ペルノ・アブサン
「ペルノ」と名前は似ていますが、こちらはニガヨモギを使用した本物のアブサンです。アブサンの本家筋ブランドが2002年に復活させました。
禁止の原因となった「ツヨン」の濃度をWHO基準に抑えつつ、かつての味を見事に再現。
度数は68度で、独特の苦味とクセのある味わいが特徴です。角砂糖を溶かして水を加える、伝統的な飲み方が楽しめます。
※販売サイト上では「パスティス」と表記されていることもありますが、実際はニガヨモギを使用した本物のアブサンです。
★ペルノ(アニス酒)
1915年にアブサンが禁止された直後、アブサンを販売していたペルノ社が、禁止成分なしの代替品として発表したのが「ペルノ」です。
アニスなど15種類のハーブを使い、アブサンの味に近づけました。ちなみにEUの規定上は、パスティスではなく「アニス酒」というカテゴリーに分類されます。
度数は40度ほどで、甘さは控えめ。クセがなく、とても飲みやすい一本です。
★リカール
リカールは、ポール・リカールが1932年にマルセイユで生み出したリキュールです。
プロヴァンス産のスターアニスやリコリス、フェンネルなどを、96度の中性スピリッツに浸して造られます。
「マルセイユの夏の芳香酒」という謳い文句が大ヒットし、欧州トップブランドへと成長しました。
度数は45度。甘さ・香り・味わいがしっかり感じられ、ハーブ香も豊かです。水に数滴垂らして飲む楽しみ方もあります。
そして1975年、ペルノ社とリカール社が合弁会社を設立。このジャンルの頂点となるブランドが誕生しました。
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こ同じ薬草系リキュールの仲間としては、ドイツの「イエーガーマイスター」も外せません。
56種類のハーブを使った、また違ったタイプの薬草リキュールです。気になる方はこちらもどうぞ。
▶︎ 56種のスパイス・ハーブが織りなす神秘!【イエーガーマイスター】
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飲み方ガイド(アブサン・ドリップ)

ストレートで飲まれることも多いですが、いかんせん度数が高いため『水割り』や『炭酸orトニック割り』で飲まれるのがポピュラー!
今回は伝説の酒アブサンの伝統的な飲み方、「アブサン・ドリップ」をご紹介。
アブサン・ドリップは、専用アイテムが必要です。それは穴の開いた「アブサンスプーン」🥄
【作り方】
★アブサンを注いだグラスの上に角砂糖1つのせたアブサンスプーンを置きます。
★その角砂糖の上から水を1滴ずつ垂らしていきます。(アブサンに含まれるハーブ精油が水と反応し、白濁していく様が神秘的)
★角砂糖がほどよく溶けたら軽くステアして完成!!
一口メモ💡
写真のように角砂糖に染み込ませたアブサンに火をつけ、ミネラル・ウォーターを少量づつ垂らして湿らせ、スプーンをひっくり返してグラスに角砂糖を落とし入れ、混ぜ飲む。なんて飲み方もあります。
プロ目線、ここで差がつきます!
①水は「氷水」を使う
常温の水よりも、氷水を使う方がおすすめです。急激な温度変化を避けることで、精油成分がゆっくり析出し、白濁(ルーシュ効果)がより美しく仕上がります。
②水を垂らすスピードは「ゆっくり」が鉄則
一気に注ぐと、香りが飛んでしまいます。角砂糖にポタポタと一滴ずつ垂らすイメージで、5分程度かけてじっくり行うのが理想です。
③水とアブサンの比率は「3:1〜5:1」が目安
アブサン1に対して、水を3〜5倍程度加えるのが伝統的な比率です。度数の高いアブサンほど、水多めで調整すると飲みやすくなります。
でも、じっくり垂らした方が香りの開き方が全然違います!
ここは我慢のしどころです。
④火をつける飲み方について
一部で「角砂糖に火をつける」飲み方が知られていますが、これは伝統的な飲み方ではなく、風味を損なうとして専門家からは推奨されていません。
安全面でもリスクがあるため、当ブログでは基本的におすすめしていません…!
アブサンと映画

伝説の酒、悪魔の酒、幻。
芸術家のみならず、様々な時代のアーティストたちに多大な影響とインスピレーションを与えてきたアブサン。
ドカベンで有名な水島新司先生作の『あぶさん』もこのアブサンから取られているそう。
(主人公・景浦安武の通称「あぶさん」は、名前の音読み「安武(やすたけ)→あぶ」と「アブサン」を掛け合わせたのが由来みたいです)
そして『人間失格』では『喪失感』の例えとしてアブサンが出てきたり…。
ちょっとみてみましょ。
『フロムヘル』
2001年公開、監督はヒューズ兄弟。
1888年にロンドンで起きた未解決事件、切り裂きジャックを題材にした映画。
ジョニー・デップ演じる刑事アバーラインは、事件の被害者たちの声を幻視する能力を持つという設定で、アブサンがその「予知能力」の演出装置としても使われています。(風呂浸かりながら飲んだりします)あの『アブサン・ドリップ』が堪能できますよ!
この映画が僕とアブサンの初めての邂逅です。『なんじゃこの酒!火ィついとる…!』と感動しました。
『ムーランルージュ』
2001年公開、監督バズ・ラーマン。ラブストーリーミュージカル映画。
19世紀末のパリ・モンマルトルが舞台で、アブサンを飲んだ主人公の視点から「緑の妖精」が幻視として登場する演出は、当時のアブサン文化をそのまま映像化した名シーンとして知られています。
大好きなユアン・マクレガーとニコールキッドマンでてます。(アブサンの妖精としてカイリーミノーグ登場しますよ)
『太陽と月に背いて』
1995年公開、原題は『Total Eclipse』。
ディカプリオが詩人ランボー役。
詩人ランボーとヴェルレーヌの破滅的な関係を描いた実話ベースの作品で、この記事でも紹介した2人の詩人が、劇中でまさにアブサンを酌み交わします。
『ライアー』
1997年公開のサスペンス映画。ティム・ロス演じる富豪の青年ウェイランドが、殺人事件の容疑者として刑事たちと繰り広げる心理戦を描いた作品で、彼の底知れなさを象徴する小道具としてアブサンが使われています。ティム・ロスすき。いつもアブサン!
『ドラキュラ』
1992年公開、ブラムストーカー原作のドラキュラを映画化したホラーファンタジー。
監督はあのフランシス・フォード・コッポラ。原題は『Bram Stoker's Dracula』。
19世紀末のロンドンが舞台という時代設定も、アブサンが流行していた時期とぴったり重なっています。
こちらも大好きなゲイリー・オールドマンとウィノナライダー主演。レストランで飲んでます。
『ヴァンへルシング』
2004年公開、監督スティーヴン・ソマーズ。ドラキュラ、フランケンシュタインの怪物、狼男が一挙に登場するモンスター映画で、19世紀末〜20世紀初頭という時代設定がアブサンの全盛期と重なります。
ヒュージャックマンが演じるヴァンヘルシングはアブサンボトル常備。これ、映画館で観ました!
ドラキュラもオオカミ男もフランケンシュタインの怪物なんかも盛りだくさんのワクワク映画です。
(関係ないですけどわたし、ヒュージャックマンと同じ誕生日です。それが唯一の自慢です。)
『インタビュー・ウィズ・バンパイア』
1994年公開、アン・ライスの同名小説が原作。18世紀末〜19世紀のニューオーリンズから物語が始まる設定で、こちらも「禁断の酒」というアブサンのイメージと世界観がよく合っています。
トムクルーズ演じるバンパイアのレスタトが少年の血を飲むとき『おおぃ!アブサン飲ませたんか!』って聞くシーンが印象的。
ブラッドピットなんかも出てます。あとクリスチャンスレーターも!
おわりに
さまざまな異名や逸話、伝説が多い『幻のお酒』
たくさんの芸術家やアーティストたちを魅了する不思議な魅力に包まれたお酒でしたね。
たしかに、お酒飲んでリラックスしている時に「思いがけないアイデア」や「インスピレーションが降ってくる!」なんてよく聞きますが
わたしの場合、次の日に落ち着いてからアイデア(?)メモ見返してみると、メチャクチャしょうもないモノが多いです…。
やはり飲み過ぎは危険。(取り憑かれちゃマズイですね!)
この記事を参考にいろいろなアブサンを楽しんでみてくださいね。ハマるととっても美味しいですよ。
【おまけ】
最後にもう1本!ちょっと変わり種のアブサンをご紹介します。
なんと、あのミュージシャン、マリリン・マンソンがプロデュースした「マンサン(Mansinthe)」というアブサンがあるんです。
芸術家を虜にしてきたアブサンの歴史を考えると、彼がプロデュースしているのも、なんだか納得できる気がしませんか?
『66.6%』だとっ…!!(さすが)