
「アニス酒」という言葉、聞いたことはありますか?
代表格である「アブサン」をはじめ、実は世界中に、アニスを主原料にしたお酒がたくさん存在します。
実に個性豊かな仲間たちがいるんですよ!
今回は、バーテンダー歴15年の筆者が、世界のアニス系リキュールを飲み方付きでたっぷりご紹介します。
まずは、そもそも「アニス」とはどんなスパイスなのか、基礎知識から見ていきましょう。
筆者紹介
🍺レストラン&バーで修行して15年!
🌶️エスビー食品公認資格『スパイス&ハーブ検定』1級ホルダー
🌿スパイス漬け込み酒を日夜作成中
アニスとは?基礎知識

古代から愛される、神聖なスパイス
アニスは、セリ科の一年草で、種子を香辛料として使用するスパイスです。
古代エジプトでは「神聖なスパイス」として崇められ、古代ギリシャやローマでも医薬品として重宝されてきました。
中世ヨーロッパでは特に貴重なスパイスとして取引され、特別な税金が課されたこともあります。
香りの正体は「アネトール」
アニス特有の甘い香りの正体は、「アネトール」という精油成分。
芳香族化合物の一種で、アニスの他にもフェンネルやスターアニス(八角)など、甘草(リコリス)のような香りを持つスパイスに共通して含まれています。
この甘い香りを活かして、ケーキやジャムなどの甘味類に使われる他、苦い薬のコーティングにも役立てられてます。
料理では主にスペイン料理に使われることが多く、パンやシチュー、スープの風味づけ、フレンチドレッシングなどにも活用。
独特な風味はアルコールの風味づけとも相性が良く、特に地中海沿岸諸国では、アニスを使ったリキュールが数多く造られています(詳しくは後述します!)。
植物と種子
温暖な気候であればどこでも栽培しやすい植物で、高さ40〜60cmほどに生長。
スパイスとして利用する部位は種子(植物学上の分類も種子)。
熟す直前に収穫して乾燥させ、種子だけを取り出してさらに乾燥させる、手間のかかる工程を経て作られます。
見た目は、同じセリ科のフェンネルやキャラウェイ、クミンなどとよく似ています。
消化促進効果があると言われており、インドでは種子をそのまま噛んで、消化薬や食後の口臭消しとして使う習慣もあります。
⚠️注意事項
乳幼児や妊娠中・授乳中の方は、使用をできるだけ避けてください。
アニス酒とは?世界のアニス系リキュール大全
でも実は、世界中に「アニスが主役のお酒」がたくさんあるんです!
アニスが使われているお酒で特に有名なのが、幻の酒として知られる「アブサン」です。
19世紀ヨーロッパで大流行し、その独特の緑色から「グリーン・フェアリー(緑の妖精)」とも呼ばれました。
ニガヨモギ由来の成分「ツヨン」が問題視され、1915年に一時禁止されましたが、現在は規制値内で製造・販売が再開されています。
アブサンの歴史・選び方・飲み方については、非常に奥が深いので、こちらで1本まるごと解説しています。
アブサン解説記事
▶︎ 【アブサン】緑の妖精・禁断の酒の正体とは?歴史から選び方まで徹底解説
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【アブサン】緑の妖精・禁断の酒の正体とは?歴史から選び方まで徹底解説
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ここでは、アブサン以外の「アニス系リキュール」の世界を、たっぷりご紹介していきます!
水で割ると白く濁る!不思議なお酒
水で割ると白く濁る、不思議なお酒たち
アニス系のお酒に共通する、面白い特徴があります。
これは「ルーシュ効果」と呼ばれる現象です。
アルコールに溶け込んでいた精油成分が、水を加えることでアルコール濃度が下がり、溶けきれなくなった成分が細かい粒子となって漂うことで、光を乱反射させるために起こります。
アニス系のお酒の多くは、無色透明で度数40〜70度超と高めなのも共通した特徴です。
パスティス・ファミリー:アブサンの代わりに生まれたお酒たち
アブサンが禁止されていた時代、その代役として生まれたお酒のジャンルが「パスティス」です。
「パスティシェ」(フランス語で"似せる、まがい物"の意味)が語源とされています。主な香味原料はアニス、スターアニス、フェンネル、甘草(リコリス)で、これらを高濃度の中性スピリッツに浸漬・蒸留して作られます。
代表的な銘柄をご紹介します。
ペルノ(Pernod)
1915年にアブサンが禁止された直後、アブサンを販売していたペルノ社が発表した代替品です。
アニスなど15種類のハーブを使い、アブサンの味に近づけました。度数40度ほどで、クセがなく飲みやすい一本です。
リカール(Ricard)
ポール・リカールが1932年にマルセイユで生み出したリキュール。「マルセイユの夏の芳香酒」という謳い文句で欧州トップブランドへ成長しました。
度数45度、甘さ・香りともにしっかりした味わいです。
歴史的なつながりがあるんですね。
こちらもフランス発、プロヴァンス地方を中心に人気のパスティスです。
水割りにすると、リキュールと水を1:4の割合で割ると美しく白濁します。
ウゾ(Ouzo):ギリシャ生まれの海辺のお酒
ギリシャ産のアニス系リキュール。海辺でのんびり楽しむお酒として親しまれています。
おすすめの飲み方:ウゾレモネード
ウゾ30ml、レモンジュース60ml、ソーダ水120mlを、氷を入れたグラスに注ぎ、ミントを飾れば完成です。夕日と海辺が似合う、爽やかなカクテルです。
サンブーカ(Sambuca):イタリア生まれのエルダー香るリキュール
エルダー(西洋ニワトコ)の花の抽出液をベースに、リコリスやアニスなどを加えて作られる、イタリア特産のリキュールです。名前は、エルダーベリーを意味するラテン語「サンブークス・ニグラ」に由来するとされています。
無色透明で、度数は40度前後。アニゼットを軽やかにしたような味わいが特徴です。
おすすめの飲み方:サンブーカコーヒー
エスプレッソを抽出し、サンブーカをゆっくり注いでコーヒー豆を3粒浮かべれば完成。食後酒の定番で、口と胃がすっきりする味わいです。
アニゼット(Anisette):看病のお礼から生まれたリキュール
アニスの種子の香味を主体に、キャラウェイやナツメグなどを加えて作られる、無色透明で甘口のリキュールです。
代表銘柄は、1755年にフランス・ボルドーで創業した「マリー・ブリザール社」のアニゼット。実はこの誕生には、心温まる逸話があります。
創業者マリー・ブリザールが、道端で行き倒れていた西インド諸島出身の船員を助けたお礼として、彼が持っていたアニス酒のレシピを伝授されたのが始まりなのだそうです。
なかなかクールなエピソードですね。
アラック(Arak):中東生まれの香り高いお酒
レバノンやシリアなど、中東で親しまれているアニス系のお酒です。ハーブの香りが強烈ですが、病みつきになる味わいです。現地ではストレートで飲まれることも多いですが、甘めのジュースで割るのもおすすめです。
アニスのお菓子レシピ5選

アニスが活躍するのは、お酒だけじゃないのです!爽やかな香りと甘さは、お菓子作りにピッタリ。
ここではアニスを使ったお菓子のレシピを5つご紹介します。
アニスシード
これから紹介するレシピは、すべて「アニスシード」を使います!
ホールタイプなら、お菓子作りだけでなく、そのまま噛んで口直しにするインドの伝統的な楽しみ方も試せますよ。
1. アニスのクッキー (6人前)
●材料
- 小麦粉:250g
- 砂糖:100g
- バター:125g
- 卵:1個
- アニスシード:小さじ2
- ベーキングパウダー:小さじ1
●作り方
1. ボウルにバターと砂糖を入れ、クリーム状になるまで混ぜる。
2. 卵を加えてよく混ぜる。
3. 小麦粉とベーキングパウダー、アニスシードを加えてよく混ぜる。
4. 生地を冷蔵庫で30分ほど冷やす。
5. 生地を取り出し、好みの形に成形する。
6. 180℃に予熱したオーブンで10-12分焼く。
2. アニス風味のショートブレッド (8人前)
●材料
- バター:200g
- 砂糖:100g
- 小麦粉:300g
- アニスシード:小さじ2
●作り方
1. バターを室温で柔らかくし、砂糖と混ぜる。
2. 小麦粉とアニスシードを加え、よく混ぜる。
3. 生地を厚さ1cmに延ばし、好みの形に切る。
4. 170℃に予熱したオーブンで20-25分焼く。
3. アニスのパウンドケーキ (10人前)
●材料
- 小麦粉:200g
- バター:200g
- 砂糖:150g
- 卵:3個
- アニスシード:小さじ2
- ベーキングパウダー:小さじ1
●作り方
1. バターと砂糖をクリーム状に混ぜる。
2. 卵を一つずつ加え、その都度よく混ぜる。
3. 小麦粉、ベーキングパウダー、アニスシードを加えてさっくり混ぜる。
4. 型に流し込み、180℃に予熱したオーブンで40-45分焼く。
4. アニス風味のフィナンシェ (12人前)
●材料
- アーモンドプードル:100g
- 砂糖:150g
- 小麦粉:50g
- バター:100g
- 卵白:4個
- アニスシード:小さじ2
●作り方
1. バターを焦がしバターにし、冷ましておく。
2. アーモンドプードル、砂糖、小麦粉、アニスシードを混ぜる。
3. 卵白を加えて混ぜ、焦がしバターを少しずつ加える。
4. 型に流し込み、200℃に予熱したオーブンで12-15分焼く。
5. アニスのビスコッティ (8人前)
●材料
- 小麦粉:250g
- 砂糖:150g
- 卵:2個
- ベーキングパウダー:小さじ1
- アニスシード:小さじ2
●作り方
1. 小麦粉、砂糖、ベーキングパウダー、アニスシードを混ぜる。
2. 卵を加えてよく混ぜる。
3. 生地を2本の棒状に成形し、180℃に予熱したオーブンで20-25分焼く。
4. 一度冷ました後、1cm幅にスライスし、再度180℃のオーブンで10-15分焼く。
【ワンポイント💡】
アニスの香味は空気に触れると変化しやすいです!
すりつぶした直後から香味を失い始めるので、種子のまま保存しておいて使うとき都度すり潰すと◎
【コラム✒️】
オランダの出産祝い菓子「ベスハウト・メット・マウシェス」
女の子はピンク、男の子は水色の砂糖でコーティングしたアニシードをラスクにトッピングしたものなんてのもあります!
文化と歴史

アニスの文化と歴史
アニスは最も古いスパイスの一つで、古代から医療品・薬用酒として使われてきました。
消化を助ける効果があるとされ、「食後に飲む」習慣が古くから根付いています。
古代ローマの結婚式ケーキ
紀元前3世紀ごろのローマでは、アニスを使ったワインケーキが、結婚式など祝宴の最後に振る舞われていました。
豪華な食事の後、客人たちの消化を助けるために出されたものでしたが、やがて様々な祝宴・宴会で客人をもてなすケーキとして大流行!
これが、現代のウェディングケーキの由来という説もあります。
古代エジプトの防腐剤
紀元前4000年ごろの古代エジプトでは、位の高い王族や貴族が亡くなった際、遺体の防腐・保存剤としてアニスとクミンが使われていました(後にシナモンが登場するまでの話ですね)。
古代ギリシャの万能薬
「医学の父」と呼ばれる医師ヒポクラテスは、アニスを風邪や咳の治療に用いていたとされています。
中世ヨーロッパを支えた税収
中世ヨーロッパでは、アニスは非常に貴重なスパイスとして扱われていました。
1305年、イングランド王エドワード1世が、ロンドン橋を通過するアニスに特別税をかけ、その税収を橋の修理費に充てたという記録が残っています。
海賊たちの秘密兵器
食糧の保存や、船内の悪臭を和らげるために、海賊たちもアニスを活用していたと言われています。(すごいぞ。アニス!)
アニスと、世界各地での伝統的な使われ方

アニスは、古代から世界各地で親しまれてきたスパイスです。
ここでは、アニスが「どんな場面で、どんな風に使われてきたか」を、伝統や文化の視点からご紹介します。
食後に楽しまれてきた習慣
先ほどの歴史パートでもご紹介した通り、アニスは古代ローマの時代から「食後」に楽しまれる習慣が根付いていました。
香辛料としてだけでなく、食後のお茶やお菓子の香りづけとして、今も世界各地で愛されています。
アロマ・香りの文化として
アニスの甘い香りは、ハーブティーやアロマオイルの香りとしても人気があります!
リラックスタイムのお供として、香りそのものを楽しむ文化が世界中にあります。
アニスの香りを楽しむアイテム
●ノンカフェイン アニスティー(30g)
スッキリした爽やかな飲み口。ノンカフェインなので、日々の生活に取り入れやすいのが魅力です!
●アニスオイル
有機栽培のアニスを使用した、100%ピュアなオーガニックオイル。
アロマ専門店が扱う品質にこだわった一本です。香りづけとして、お部屋のアロマやポプリ作りにも活用できますよ。
インドでの伝統的な使われ方
インドでは、食後に種子をそのまま噛む習慣があり、口直しとして親しまれています(カレー屋さんのレジ前とかに置いてあったりしますよね!)。
スキンケア・ヘアケアの分野でも
アニスの精油(アニスオイル)は、香水やポプリの香料としてだけでなく、スキンケアやヘアケアのアイテムに配合されることもあります。
⚠️重要な注意事項
上記はあくまでアニスの伝統的な使われ方・文化的背景の紹介です。
アニスは医療目的の食品・スキンケア成分ではなく、特定の健康・美容効果を保証するものではありません。
妊娠中・授乳中の方は使用を避け、精油を肌に使う場合は必ず希釈し、事前にパッチテストを行ってください。敏感肌の方は特にご注意ください。
おわりに
古代エジプトから現代まで、何千年もの間、世界中の人々を魅了してきたスパイス「アニス」。
お菓子や料理の香りづけとしてはもちろん、アブサン、パスティス、ウゾ、サンブーカ、アニゼット、アラックと、世界中で数えきれないほどのお酒を生み出してきました。
たった1つのスパイスが、こんなにも多くの文化・お酒を育んできたと思うと、なんだか感慨深いですよね。
個人的には、幻の酒アブサンが持つ「怪しいかっこよさ」に強く惹かれています。
ゴッホが虜になったという逸話、映画『フロムヘル』でジョニー・デップが飲んでいたシーン、どれも印象的で大好きです。
アブサンについては、こちらの記事でさらに詳しく解説しておりますので。
歴史・選び方・本格的な飲み方まで気になる方は、ぜひご覧くださいませ。
▶︎ 【アブサン】緑の妖精・禁断の酒の正体とは?歴史から選び方まで徹底解説
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【アブサン】緑の妖精・禁断の酒の正体とは?歴史から選び方まで徹底解説
『緑の悪魔』、『美しき狂気』 そんな物騒な異名を持つ、幻のお酒があります。 それこそが、『アブサン』です。 19世紀のヨーロッパで芸術家たちを虜にし、一時は禁止までされたこのお酒。 一体どんな魅力があ ...
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
参考文献
●福西英三、花崎一夫、山崎正信 著『新版 バーテンダーズマニュアル』柴田書店, 2008年5月
●エスビー食品株式会社、藤沢セリカ 監修『ハーブとスパイスの図鑑ミニ』マイナビ出版, 2018年12月
●川崎寛也 著『味・香り「こつ」の科学 おいしさを高める味と香りのQ&A』柴田書店, 2021年9月
●主婦の友社 編『スパイス&ハーブの使いこなし辞典』主婦の友社, 2009年8月
●スチュアート・ファリモンド 著、辻静雄料理教育研究所 監修『スパイスの科学大図鑑:香りの効果的な引き出し方や相性を徹底解明』誠文堂新光社, 2021年3月
●武政三男 総監修『大人時間を味わう たのしいスパイス絵本』日本文芸社, 2022年5月
●ファミマ・ドット・コム『はじめてのスパイス便利帖』エディング, 2014年12月
●メディアパル『はじめてのハーブ手帖』エディング 企画・編集, 2013年6月
●やまねこ舎『ハーブ・スパイスの辞典』成美堂出版, 2013年